子ぎつねヘレン






解 説

2006年春、一匹の子ぎつねが日本中に愛とやさしさを届けます

 春の北海道で、東京からやって来た少年・太一は、一匹の子ぎつねに出会った。太一は母親とはぐれた子ぎつねを、放っておくことは出来なかった。子ぎつねの姿に、母親が仕事で忙しく、いつもひとりぼっちで淋しい思いをしている自分を重ね合わせたのだ。太一は母に預けられた森の動物診療所に子ぎつねを連れ帰り、一生懸命に育て始める。その様子を時に厳しく、時に温かく見守る診療所の獣医・矢島。子ぎつねの目と耳が不自由なことに気付いた矢島は、医師としての限界に心を痛める。「まるでヘレン・ケラーだ」という矢島の一言から、太一は子ぎつねに"ヘレン"と名付け、やがてヘレンは太一にだけは信頼と友情を示すようになるのだが......。

 切ない運命を背負いながらも与えられた命を生き抜く子ぎつね、母親を恋しく思いながらも涙を見せないけなげな少年、医師として、親としての生き方を模索する獣医──彼らが結び合う心の絆を通して、家族の再生と生きることの素晴らしさを描く、最高の感動作が誕生した。原作は、キタキツネの生態調査の第一人者で、傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリに取り組み、写真家・エッセイストとしても活躍している竹田津実の「子ぎつねヘレンがのこしたもの」(偕成社刊)。やさしさに満ちたほのぼのとした写真と、生きることの意味を問いかける心に沁みる文章で、実在した目と耳の不自由な子ぎつねと過ごした日々が綴られている。このベストセラーの実話をもとに、新たなオリジナル・ストーリーとして創られたのが、映画「子ぎつねへレン」なのだ。

 太一を演じるのは、TVドラマ「みんな昔は子供だった」で注目された深澤嵐。たった一人の家族である母親と離れて、都会から慣れない土地へやって来た太一が、小さな命の輝きを感じとることで、自身もたくましく成長していく姿を溌剌と演じている。
 太一の母親の恋人で、彼を預かる獣医・矢島を演じるのは、「世界の中心で、愛をさけぶ」「解夏」に主演し、今やヒット作には欠かせない存在となった大沢たかお。真っ直ぐすぎる性格のため人付き合いが苦手で、一見ぶっきらぼうだが、本当は情に厚い矢島を味わい深く演じている。太一の母・律子には、ドラマや舞台で活躍、3年ぶりの映画出演に本作を選んだ松雪泰子。カメラマンとして世界中を駆け回り、側にいられない代わりに、明るく前向きな生き方を息子に示す魅力的なシングル・マザーに扮している。矢島の娘・美鈴には、「HINOKIO」にも出演、人気急上昇中の若手女優、小林涼子。
 その他、矢島の恩師である獣医大学の教授・上原には、映画・テレビなどで多彩な才能を見せる藤村俊二、森に住む謎の老婆には、数多くの舞台に出演し、映画・CMでも活躍中の吉田日出子、派出所の警官には「真夜中の弥次さん喜多さん」「妖怪大戦争」の阿部サダヲ、太一の担任の山口先生には20〜30代の女性に圧倒的な支持を受けるカリスマモデルであり、女優としても活躍中の田波涼子など個性的な顔ぶれが共演。

 監督は、「王様のレストラン」「古畑任三郎 すべて閣下の仕業」「白い巨塔」など数多くのヒットドラマを手がける河野圭太。地球に生まれたすべての命を慈しむという原作のテーマを守りつつ、大胆に新たなストーリーを構築した脚本は、「パコダテ人」「風の絨毯」の今井雅子。撮影は「壬生義士伝」「血と骨」などの日本映画界を代表する名カメラマン、浜田毅。本作では北海道オール・ロケを敢行、さえぎるものが何もない青い大空、大地の呼吸が聴こえる緑の平原、色鮮やかな花々が咲き誇る原生花園など、美しく壮大な自然をスクリーンに焼き付けた。また、照明を「NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE」の松岡泰彦、美術を「赤い月」「単騎、千里を走る。」の瀬下幸治が手がけている。